薔薇水晶 支援文 『ダークヒーローについて』 華々しい活躍を演じるヒーローたち。 栄誉と賞賛、そして羨望の的となる、祝福されしものたち。 だが創造主たちは時に、彼らヒーローたちと対を成す存在を産み出すことがある。 単なるケチな小悪党ではない。 毎週、登場してはやられてゆく、怪獣・怪人の類でもない。 ヒーローと同等の重さの宿命を背負い、 ヒーローの反存在として、物語を牽引するものたち。 我々は、畏敬の念を込めて、彼らをこう呼ぶ。   ――― ダークヒーロー、と。 http://hp.jpdo.com/dd02/3/img/389.jpg http://www.chara-net.com/images-item-big/ref1-1995.jpg http://www.fujitv.co.jp/video/details/anime/img/ruro_ch2.jpg  § § § 前作『ローゼンメイデン』のラストで、分かり合えたかもしれない相手・水銀燈を おのが手にかけてしまった、主人公の真紅。 そしてその仲間たちも、互いに戦う意思を失い、アリスゲームはうやむやのうちに 終息したかに見えた。 (どうやら、前作の結末の時点で続編の予定はなかったらしく、  スタッフはこの時点でハッキリと『これで終わり』にしてしまったようである) しかし、この状態では続編が作れないわけで、 物語をかき回し、あらたな戦いを引き起こす者が、必要とされていた。 そこで、アニメスタッフによって「創作」されたのが、薔薇水晶というわけである。 http://hp.jpdo.com/dd02/3/img/197.jpg  § § § ローゼンメイデンたちが互いに戦い、生き残るものを決める「アリスゲーム」。 そこに、ローゼンメイデンではないにもかかわらず、 一方的に乱入したのが、薔薇水晶である。 彼女はまず、真紅たちを挑発することでアリスゲームへの参画の意思を呼び起こし、 さらによみがえった水銀燈を、言葉巧みにあやつり、自分の手駒としてしまう。 このように「陰で暗躍」というイメージのあった薔薇水晶ではあったが、 いざ自らが戦いの場に立つと、これがまた強い。シャレにならないくらい強い。 新たにミーディアム(人間のパートナー)を得て パワーアップしたはずの翠星石を、あっさり片づけ、 金糸雀には腕一本を持っていかれるも、まったく動ずることなく返り討ちである。 もっとも、強いのは当然という考え方もある。 なにしろ薔薇水晶は、外見こそローゼンメイデンの一員のように見えるが、 ローゼンとは別の人間によって作られた、規格外れの存在。 ローゼンメイデンにとっての命の源であるローザミスティカを持たず、 ミーディアムも必要としない様子である。 言ってみれば、メーカー公認のミニ四駆の大会に、 爆速モーターと高電圧バッテリーを積んだ車で、乱入するようなものである。 これで勝てないわけはない。 特に「ミーディアムを必要としない」という点は、重要と見るべきだろう。 今作『トロイメント』では、これまでミーディアムを持たなかった翠星石と水銀燈が 新たにミーディアムを得ており、 ミーディアムとの関係が異常なものとなっていた蒼星石は、健全な関係を取り戻している。 彼女たちはローゼンメイデンとして、かくあるべき「規格」の中に次々と納まり、 その中で、自分にとって大切な絆を見つけだしていったのである。 そんな中で、パートナーを必要とせず、父である槐(エンジュ)以外の者に心を開かず、 ただ己の力のみを頼る薔薇水晶は、どこまでも異質である。 確かに水銀燈と共闘してはいたが、実は薔薇水晶にとっては、 水銀燈は下僕として使役し、用が済んだら切り捨てる、それだけの存在でしかなかった。 だが、真紅の眼前で水銀燈を始末してしまったのは、 さすがに薔薇水晶の失態だったと言わざるを得ない。 この瞬間、真紅は薔薇水晶を打倒する、個人的な理由を得てしまった。 これまでウジウジと戦いを避けていた真紅を、 わざわざ自分の手で覚醒させてしまったも同然であろう。 相手を挑発し、平静さを失わせるのが、薔薇水晶の常套手段。 しかし彼女にも、真紅の胸のうちは、完全には把握できていなかったわけである。  § § § 敗者たちから奪い取った能力をわがものとして、真紅を追い詰める薔薇水晶。 しかし真紅は、かつての彼女ではない。 水銀燈を殺してしまったという罪業を、迷いを、戦う意思へと昇華させているのだ。 かつて自分が倒した雛苺が、その命を停止したという経緯も経て、 すでに真紅は、他者を傷つけ命を奪うことを、己の原罪として受け入れていた。 正面からの、正々堂々の技のぶつかり合いで、真紅は薔薇水晶を圧倒。 そしてその身体をくみしだき、トドメを指そうとする。 ああ、そうだ。いつもこうなんだよな。 ダークヒーローを待ちうける運命は、2つしかないんだ。 ヒーローと戦って敗れ去るか、 それとも、いつのまにかヒーローの価値観を受け入れ、仲間になってしまうか。 でも、それでいいんだ。 最後には正義が勝つということ。 邪な想いは、決して成就しないということ。 それをみんなに伝えるのも、ダークヒーローの務めなんだから。 真紅、やっぱすげぇよ。カッコいいよ。 己の罪を受け入れ、迷いをくぐりぬけ、自分のなすべきことをしっかりと見据えている。 それでこそ、ヒーローだ。 こんな素晴らしい敵に恵まれ、素晴らしい物語をつむぎ出し、 そして倒されるんだ。薔薇水晶だって本望だろう。 ポッと出のアニメリジナルキャラとしては、上出来の活躍だよ。 しかし、次の瞬間。  あ っ て は な ら な い こ と が、 起 こ っ た。  § § § 真紅が薔薇水晶にトドメをさす直前。 駆けつけたジュンの言葉を聞き、真紅は思わず、その手を止める。 最後の土壇場で、やはり他人の命を奪うことを、 ほとんど本能的なレベルで思い留まってしまった真紅。 だが、薔薇水晶はためらわなかった。 真紅の胸に水晶の剣をつきさした。  や っ ち ま っ た。 アニメオリジナルの敵役キャラクターが、主人公とその仲間たちを、全滅させてしまった。 まさかのローゼンメイデン全員殲滅を、実現させてしまったのである。 結局、薔薇水晶は敗者たちから奪ったローザミスティカの力に耐えられず、自壊。 薔薇水晶によって殺された者たちは「ノーカウント」として、全員が復活を遂げる。 だが、彼女はとうとう最後まで、敵に屈することはなかった。 圧倒的な力でヒーローたちをねじ伏せ、打ち倒し、そして勝手に消えていったのである。 『トロイメント』という言葉は「夢見るように」という意味だと聞く。 悪が善を圧倒し、打ち負かし、その上に君臨する。 正統派のヒーローアニメ/コミックでは、決してあってはならないはずの、この物語は、 あるいは、つかの間の夢のような物だったのかも知れない。 だが、その夢は、この上もなく甘美なものだった。 極上の高揚感に満ちたものだった。 平和に暮らす人々を虐げ、ささやかな想いを踏みにじり、力ですべてを制圧する。 そんな薔薇水晶を見て、俺はたしかに、 強い、強い憧憬を感じていた。 社会という枠の中で、自分の気持ちを捻じ曲げ、薄ら笑いを浮かべて生きる。 なぜ、そうしなければならないのか?  それは、俺に力がないから。 薔薇水晶は違う。彼女はその力をもって、すべてを超越する。 真紅たちと心を触れ合わせることはない。同情すらも受け付けない。 愛らしいと思う美少女キャラクターは、たくさんいる。 だが薔薇水晶は、薔薇水晶が俺に見せてくれた夢は、 そして『ローゼンメイデン トロイメント』という物語は、 他では代えの効かない、たったひとつの、大切なものなんだ。  § § § ここからは補足となる。 「ダークヒーローとしての薔薇水晶」という視点から筆を進めてきたが、 実は、これからも続いていく物語の中で、 長期的にダークヒーローとして扱われるのは、やはり水銀燈なのだろうと思う。 『トロイメント』では、まったくいいところナシだった水銀燈だが、 むしろ、だからこそ今後、重要な役割が与えられるはずである。 そうでなければ、わざわざ生き返った甲斐がない。 また、『トロイメント』では真紅と水銀燈を、同格な相似形の存在として描くという、 明確な意図があるように思われる。 水銀燈がミーディアムを得たのも、その一環と見ることができるだろう。 そして物語の結末において、真紅と水銀燈は、 同じ形、同じ重さの十字架を、ひとつずつ背負うことになった。 一方、薔薇水晶は、ヒーローたちとコミュニケーションをとることもなく、 自分の物語にヒーローたちを参加させることもなかった。 最終話での感動的な散り際も、真紅たちにとってはまったく関係のない話だろう。 唯一のオフィシャルなコメディである『薔薇水晶 改造計画』(ドラマCDに収録)ですら、 敵役サイドのキャラクターたちで話が完結しているという、徹底ぶりである。 ここまでくると、薔薇水晶はもはや 「ヒーローの反存在、ダークヒーロー」という枠にすら、収めることができない。 外見こそ、ヒーローたちと同等の見かけではあるが、 ヒーローとの個人的な因縁(怨恨など)を持たず、 ヒーローたちとの一切の交渉、交流を拒絶し、 ダークヒーローの称号も他者に譲り、 ただ力によって、ヒーローたちを脅かした薔薇水晶。 それは、ほとんど抽象概念としての、災厄そのものである。 こうしたキャラクターは、古今東西のアニメ、コミックでも、ほとんど類を見ない。 (あえて言うなら、一部のアメコミに登場する、悪しき神々が挙げられるくらいである) 美少女キャラクターとしてはもちろんのこと、 悪役、敵役としても、薔薇水晶は唯一にして無二の存在なのである。 <<薔薇水晶@ローゼンメイデン トロイメント>>  (初出・裏最萌 二次予選)                          ∴